ONとOFFを切り替える、フレキシブル空間の物語
はじめに
現代の働き方の変化に伴い、自宅内に仕事のためのスペースを設ける方が増えています。リビングの一角、寝室の片隅、あるいは独立した一室。どのような場所を選ぶにしても、仕事に集中するための環境と、心身を休めるための安らぎの空間をいかに両立させるかは、多くの方が直面する課題と言えるでしょう。
単にデスクと椅子を置くだけでなく、空間に区切りを持たせたり、使用する時間帯や目的に応じて柔軟に変化させたりする工夫は、心地よい暮らしを送る上で非常に重要になります。今回は、仕事とプライベート、それぞれの時間を豊かに過ごすために、空間にフレキシビリティを持たせた方の物語をご紹介いたします。
空間にメリハリを生む工夫とこだわり
今回お話をお伺いしたのは、リビングの一角にご自身のワークスペースを設けているAさんです。以前は仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちで、仕事が終わっても気分が切り替わらず、うまくリラックスできないという悩みを抱えていらっしゃいました。そこで、空間の使い方に意識的にメリハリをつけるための工夫を始められたそうです。
最もこだわった点の一つは、「視覚的な区切り」でした。物理的な壁を作るのは難しかったため、背の高いシェルフや観葉植物を配置することで、リビングの共有スペースとは緩やかにゾーニングされています。完全に遮断するのではなく、視線を誘導するような配置にすることで、圧迫感なく独立性を保つことを目指したといいます。このシェルフには、仕事関連の書類や本だけでなく、お気に入りの雑貨や写真も飾られており、単なる「仕事の壁」ではなく、空間のアクセントとしても機能しています。
また、仕事中の視界に余計な情報が入らないように、デスクの向きや背後の壁にも配慮されています。デスクに座った時に目に入るのは、落ち着いた色合いの壁か、厳選されたアート作品のみ。これにより、集中したい時には視覚的なノイズを減らし、休憩したい時には意識的に視線をシェルフの飾りやリビング全体に向けることで、気分転換を図っているそうです。
隠す収納が叶える「OFF」の空間
仕事とプライベートの切り替えをスムーズにするために、Aさんが特に力を入れたのが「収納」です。仕事が終わった際に、デスクの上に書類やPCが散乱したままになっていると、どうしても仕事の続きを意識してしまい、リラックスできないと感じていたからです。
そこで導入されたのが、デスクの下や近くに配置された、仕事道具をまとめて隠せる収納ツールです。PCは専用のボックスに立てて収納し、書類はプロジェクトごとに分類してファイルボックスに収め、それらを全てキャスター付きの収納棚や引き出しにしまえるように工夫されています。使用する際は必要なものだけを取り出し、仕事が終わればすぐに片付けられる仕組みを徹底したといいます。
「すべてを隠してしまうことで、空間が仕事モードから解放される感覚があるんです」とAさんは話されます。物理的に物がなくなることで、心理的な区切りも生まれやすくなったそうです。また、収納家具自体も、リビングのインテリアに馴染むデザインや素材を選び、ワークスペースとして使用しない時間帯には、あたかも最初からリビングの一部であったかのように見えるよう配慮されています。
光と音、そして香りの演出
さらに、五感に働きかける要素も、ONとOFFの切り替えに活用されています。仕事中は手元を明るく照らすデスクライトを使用し、集中力を高めます。一方、仕事が終わった後は、デスクライトを消し、リビング全体を照らす柔らかな間接照明や、暖色系のフロアライトに切り替えることで、一気にリラックスした雰囲気を演出します。
音に関しても同様です。仕事中は集中できる環境音楽や、時には家族の生活音を遮断するためにノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを使用することもあります。仕事が終わると、イヤホンを外し、お気に入りのプレイリストを小さなスピーカーで流したり、静かに過ごしたりと、その時の気分に合わせて音環境を変えているそうです。
香りの活用も、心地よい空間づくりに欠かせない要素です。仕事中は集中力をサポートするようなクリアな香りのアロマを焚き、仕事が終わった後や休日は、心を落ち着かせるラベンダーやカモミール、あるいは季節を感じさせる香りに切り替えることで、嗅覚からもモードの切り替えを促しています。
この空間がもたらす安らぎ
これらの工夫を重ねたことで、Aさんのワークスペースは単なる仕事場ではなく、ONとOFFの切り替えをサポートしてくれる「安らぎのスポット」となりました。仕事に集中したい時は物理的・視覚的な区切りによって心地よく没頭でき、仕事が終われば、収納によって仕事の痕跡を隠し、光や音、香りを切り替えることでスムーズにリラックスモードへと移行できるようになったといいます。
「限られたスペースでも、工夫次第でこれほどまでに気持ちの切り替えがしやすくなるのかと、自分自身驚いています」とAさんは語ります。空間にメリハリを持たせることは、暮らし全体にリズムを生み、心の余裕にも繋がることを実感されているようです。
終わりに
自宅での仕事とプライベートのバランスを取ることは、多くの方にとって新たな課題となっています。今回ご紹介したAさんのように、空間にフレキシビリティを持たせるための様々な工夫は、皆様の空間づくりにおいても参考になるのではないでしょうか。物理的な区切りだけでなく、視覚、聴覚、嗅覚といった五感に働きかける要素を取り入れることで、より豊かなONとOFFの切り替えが可能になるかもしれません。
皆様の心地よい空間では、どのように仕事や活動と安らぎの時間を両立されていますか。どのような工夫やこだわりがあるか、ぜひお聞かせいただけますと幸いです。