趣味と安らぎを両立する、手仕事空間の工夫と物語
私たちの日常において、心満たされる趣味に没頭する時間は何よりの安らぎをもたらしてくれます。特に手仕事は、手を動かすことで心が落ち着き、完成した時の喜びは格別なものです。そして、そんな手仕事の時間をより豊かにしてくれるのが、心地よく整えられた空間です。
今回は、ご自身の趣味を心ゆくまで楽しみながら、同時に安らぎも得られるような手仕事空間を大切にされている方の物語をご紹介します。写真からは、整然としつつも温かみが感じられる空間が伝わってきますが、そこに至るまでにはどのような工夫やこだわりがあったのでしょうか。
リビングの一角から独立した空間へ
この手仕事空間の主であるAさんは、長年、布を使った小物作りを趣味とされています。以前はリビングダイニングの一角で作業をされていましたが、道具や材料が広がりやすく、片付けに時間を取られることが悩みだったそうです。また、家族が同じ空間にいると集中しきれないこともあり、もう少し腰を据えて作業に取り組める場所が欲しいと感じていらっしゃいました。
そこで、お子様の成長に伴い空き部屋となった一室を、念願の手仕事空間として整えることを決意されました。単なる作業部屋ではなく、「ここにいるだけで心地よく、創作意欲が湧いてくるような場所にしたい」という強い思いを持って空間づくりを始められたと言います。
効率と安らぎを両立させるための工夫
Aさんが空間づくりで最もこだわったのは、「作業効率」と「心の安らぎ」を両立させることでした。
まず、作業台は既成のデスクではなく、身体への負担を考慮し、Aさんの身長に合わせて高さを調整できるタイプを選ばれました。長時間同じ姿勢で作業することが多いため、椅子の座り心地にも妥協せず、いくつかの候補を試し、最も体になじむ一脚を選ばれたそうです。こうした、一見地味ながらも身体への配慮は、快適に作業を続ける上で非常に重要になります。
次に、布や糸、ハサミやミシンといった多岐にわたる道具や材料の収納です。Aさんは、使用頻度や種類によって収納方法を分けられました。よく使うハサミや定規などは、作業台のすぐ手の届く位置に、立てて収納できるツールスタンドを活用されています。布の端切れや細かなパーツは、中身が見える透明な引き出しケースに種類別に分類し、キャスター付きのワゴンにまとめています。こうすることで、必要なものをすぐに取り出せ、作業中の移動もスムーズになったそうです。また、大切な布や資材は、埃がつかないように扉付きの収納棚に美しく収められています。一部のお気に入りの布や、制作途中の作品は、あえて「見せる収納」として壁のシェルフに飾られており、これが空間の彩りにもなっています。
照明計画も重要でした。手元での細かい作業が多い手仕事には、十分な明るさが必要です。作業台には、広範囲を均一に照らし、かつ手元に影ができにくいように、アームライトを配置されました。また、空間全体には温かみのある電球色の間接照明を取り入れ、作業をしていない時でもリラックスできるような、落ち着いた雰囲気を作り出されています。
そして、安らぎのためには、視覚的な要素も大切にされています。窓から入る自然光を最大限に活かすため、作業台は窓辺に配置されました。疲れた時にふと外の景色を眺めることができるように、という配慮です。また、お気に入りの小さな観葉植物や、旅行先で見つけた思い出の品などもさりげなく飾られており、Aさんにとって心地よさを感じるものが自然に溶け込んでいます。
苦労を乗り越えて得た心地よさ
空間づくりの過程で、苦労がなかったわけではありません。特に、限られたスペースの中で全ての道具や材料を機能的に、かつ美しく収納する方法を見つけるのには時間を要したそうです。最初は、市販の収納用品をただ並べるだけになってしまい、使い勝手が悪かったり、見た目が雑然としてしまったりしたこともあったと言います。しかし、そこで諦めず、様々な収納アイデアを調べたり、実際に試しに使ってみたりする中で、ご自身の趣味のスタイルに合った最適な方法を見つけ出されました。例えば、壁面を活用するために突っ張り式の収納や有孔ボードを導入したり、家具の配置を何度も見直したりといった試行錯誤を重ねられています。
この空間がもたらすもの
完成したこの手仕事空間は、Aさんにとって単なる作業場以上の意味を持っています。ここで過ごす時間は、日常の忙しさから解放され、心穏やかに趣味に没頭できる大切な時間です。集中して作業に取り組めるため、以前よりも質の高い作品が作れるようになったと感じていらっしゃるそうです。また、お気に入りのものだけに囲まれた空間で過ごすことで、リフレッシュ効果も高く、心地よい安らぎを得られています。
この空間があることで、趣味がより一層楽しくなり、生活全体の質が向上したと感じているとAさんは語ってくださいました。それは、単に物を整理するだけでなく、ご自身の心と向き合い、本当に大切にしたい時間を尊重して作り上げた空間だからこそ得られる恩恵なのかもしれません。
皆様の心地よい空間には、どのような物語や工夫が隠されているでしょうか。この記事が、ご自身の空間づくりを振り返ったり、新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。